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1枚の写真④

 呼び名も龍生さんからたっちゃんになり今は兄ちゃんになった。血の繋がった俺達。前よりも一層親密になっている。ある日の日曜日昨晩激しく交わり朝遅めに起床した。朝食を済ませまったりと珈琲を飲んでいる。
「兄ちゃんこの際一緒に住まないか?」
「うん、いいよ。何時でも引っ越して来いよ」
「ここでもいいんだけど俺んちって言うか、兄ちゃんちでも有るんだけど今住んでる家リフォームして住めればなって思ってるんだ」
「えっ」
突然の話に兄ちゃんはキョトンとしている。俺は兄ちゃんを連れだした。前々から老朽化した家をどうするか悩んでいた。建て替え、リフォーム、売却、選択肢は3つ。唯前の道路が狭く建て替えは難しいらしい。売却しても資産価値が低いので高くは売れないと聞いた。そうなるとリフォーム。実の兄ちゃんが居ることが判った今、リフォームして一緒に住むことが出来ればそれが一番良い事だと思っていた。
「ここだぜ」
「俺もここに住んでたんだ」
「うん」
兄ちゃんは感慨深げに家を見ていた。
「入ろう。びっくりする位ボロ家だけどな」
玄関を開けた。
「お邪魔しま~す」
「何他人行儀な事言ってんだよ。兄ちゃんの家なんだからな」
「おぉ、そうだよな」
はにかみながら頭をぼりぼり掻いている。
「俺達が育った育った所だからさ。ここリフォームして一緒に住もう」
「うん、そうだな」
視線が交差する。その眼の輝きは希望に満ち溢れていた。俺と兄ちゃんの育った家。親父とお袋が残してくれた大切なものだ。俺と兄ちゃんとで守っていく。2人で実家をリフォームする事にした。リフォームプランを考える。忙しかったけど心踊るような日々が続いた。
リフォームプランその外枠が完成した。1階に駐車場、リビングダイニング、広めの浴室、2階にゲストルームと俺達の寝室。寝室は寛ぎと淫猥な空間にしたい。トイレは各階に設置する。浴室の隣にはケツ洗浄シャワールームを設置する。ウッドデッキも設置したかった。普通の家のリフォームとはチョッと趣が違う俺達の家。兄ちゃんの友達で工務店をやっ
ている祐一さんに頼むことにした。祐一さんもこっちの人でハッテン場、ゲイバー等の工事も数多く手掛けている。祐一さん祐一さんの部下で恋人の凱斗が現場監督だ。兄ちゃんは俺に似ていると言う。甘えん坊なところが……職人さん達も偏見ないいい人ばかりだった。何度か陣中見舞に行った時も気軽に話しかけてくる。
「俺達頑張っていいもの作るっすからね。幸せになってくださいよ」なんて大工さんが言って呉れた。
祐一さんがあの写真をチョッと貸してほしいと言う。何に使うのかなとは思ったけど貸し出した。何に使うんすかって聞いてみる。”秘密だぜ”って言うとにんまり笑みを浮かべていた。引き離された兄弟がまた一緒になる。それも兄弟であるのと同時に連れ合いとして一緒に新居に住む。今後の事も有るので包み隠さず話すことにした。親父の妹夫妻である橋詰さんに話しする。俺はお袋が離婚してからは会う事は無かったけど兄ちゃんは結構可愛がられてたようだ。驚愕する叔父ちゃんと叔母ちゃん。最後には微笑みを浮かべていた。
「ねぇ、リフォーム終わったら改築祝いを兼ねて貴男たちの事もお祝いしないとね」
叔母ちゃんの明るい声。横に居る叔父ちゃんはにっこりしていた。お袋の兄夫婦の五月女さんも一緒だった。驚きのあまり2人とも目を丸くしている。だが心から喜んでくれてたように俺の目には映った。
「いずれにしてもめでてぇ事だからな。お祝いしねぇとな」
「そうよね。お父さん」
伯母ちゃんもニコニコしながら声にした。悩んだあげく職場の人達にもカミングアウトする。やはり戸惑いは隠せなかったみたいだ。温もりのあるみんなの目。おめでとうの言葉を貰った。兄ちゃんも同じような反応だったと言う。俺達の回りの素敵な人達。ありがたくそして幸せ者だと俺は思った。いよいよ明日リフォームが完成する。夜6時から改築祝い兼龍生&隼汰の人前式が行われる予定だ。出席してくれるのは橋詰夫妻、五月女夫妻。俺と兄ちゃんの共通の友達である俊雄と三郎。兄ちゃんが働いている会社の坂上社長、俺が働いている会社の上司である上村部長。仕切ってくれるのは今回リフォームでお世話になった祐一さん。勿論凱斗も来てくれる。大工の仲間さんと高部さんも是非参加したいと言ってくれた。場所は新居のリビング、料理は俺が作る。会費は無料でも良かったけど500円、ワンコインだけ頂くことにした。今日親父とお袋のお墓参りも済ませた。俺達は墓前で合掌する。
”お袋、俺兄ちゃんと巡り合う事が出来たよ。お袋が合わせてくれたんだよな。孫を見せてあげる事は出来ないけど俺達は幸せになるからな”
”親父、俺隼汰を一生かけて守るつもりだぜ。天国から見守ってくれよな”そしてもう一か所行きたい所があった。あの写真に背景になっている海。色々探したけど何処だか判らなかった。この前偶然雑誌を見ていたら或る写真を見付ける。似ているなと思って照らし合わせてみるとバッチリ一緒だった。
「兄ちゃんここだぜ」
「ホントだな」
潮風が頬を掠める。チョッと切ない気分になってきた。
「海岸に降りてみようか」
「うん」
俺と兄ちゃんの影が大きくなってきた。影と影が絡まり合っている。
砂浜にすわりただぼーっとしていた。ゆっくりと時間だけが過ぎていく。
「隼汰、幸せか?」
「うん、幸せだよ」
「俺も…」
陽が落ちさっきまで遊んでいた子供たちもいなくなった。暗闇の中月と星の光だけが俺達を照らしている。ザブーンザブーンと波の音が響いてきた。いつしか肩を寄せ合っている。握り合っている兄ちゃんの手が熱い。横を向くと兄ちゃんと目が合った。唇を寄せていく。兄ちゃんの方からキスをしてきた。
「行くか」
「うん」
帰り道海岸通りを車を走らせる。飲み物を買いにコンビニに寄った。隣に並んでる店に引きよされるように入った。そこはペットショップ。無邪気な仕草に心癒された。兄ちゃんが一匹の犬のまえで立ち止まった。白にうっすらと頭の辺りが薄茶のポメラニアンの仔犬で性別はオス。
「可愛いな」
「うん」
「なぁ…」俺と兄ちゃんは一緒に口を開いた。視線が絡まり合う。俺達の長男が誕生した。名前は”龍汰”。龍生の龍と隼汰の汰をとってそう命名した。翌日は朝から忙しかった。兄ちゃんのマンションから最後の荷物が運び出される。近所の神社にお参りし永久の愛を誓った。新居に車を走らせる。もう既に祐一さんと凱斗は待っていてくれた。俺と兄ちゃんと龍汰が祐一さん達に歩み寄る。
「おっ犬飼ったのか?」
俺に抱かれてる龍汰を見ると目を細めていた。
「うちの長男の龍汰っすよ。龍汰御挨拶は?」
俺が言う。クーンクーンクーンと龍汰が甘えるように哭いた。
「抱かせろよ」
龍汰は祐一さんに抱かれるとペロペロと頬っぺたを舐めている。祐一さんは龍汰を俺に戻すと家を案内してくれた。あのボロ家が見事に甦っている。玄関には橋詰隼汰、鹿島龍生の表札が掛けれれてあった。1階に作られた4畳半の和室、此処には仏壇が置かれた。今別々のお墓に眠っている親父とお袋。家では一緒に祀りたかった。親父とお袋には迷惑な話
かも知れない。だけど仏壇に写真を並べて飾った。寝室の大きな鏡は剥き出しだと生々しいので引き戸の中に収納されるように作られた。チョッと広めの浴室。ヒーリングライトも付けて貰った。浴室から続く洗浄室。入口が判りにくいようにひっそりと造られた。2階に設置されたウッドデッキ。充分の広さがあった。天気の好い日には食事をしたり日焼けも出来る。ウッドデッキに兄ちゃんと一緒にたった。初夏の青空が広がっている。陽射しが柔らかく俺達を包んでくれた。
空 (11)
「祐一、凱斗本当に世話になったな」兄ちゃんが言う。
「こんな素晴らしい家にしてもらってありがとうございました」
俺が言った。
「俺の方こそありがとう。いい仕事させて貰ったよ。ねっ兄貴」
「そうだな」
凱斗の声が心地よく響いた。俺と兄ちゃんの思いが込められた家。今兄ちゃんの手に新しい鍵が渡された。新しい家具、家電、食器類、引っ越し荷物と次々に運ばれてくる。チョッと大きめのダブルベッドも設置された。荷物の整理を兄ちゃんに任せると俺は料理の支度に取りかかる。3時過ぎ伯母さん達が手伝いに来てくれた。場所が狭い為今日は立食タイ
プのバイキング。料理が完成しキッチンカウンターに並べられた。”鯛のお造り、牛肉の赤味噌煮、エビのお祝いサラダ、鴨のテリーヌ、生ハムのカルパッチョ、海鮮チラシ、桃のジュレ風ゼリー”素人の細やかな手料理だけど俺は最高の気持ちを込めて作った。
[ 2015/05/30 23:11 ] 1枚の写真 | TB(-) | CM(0)

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