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えにし①

 俺は秀正32歳島津造園という会社を営んでいる。5年前親方である父親が急逝した。俺と母親は今後のことを思惟する。従業員を雇うことにした。その時入ってきたのが井崎元春当時23歳だ。俺と同じように坊主頭で髭を生やしている。
髭 (6)
愁いを帯びた表情を浮かべていた。印象的だったのは途轍もなく澄んだ目。面接した俺とお袋だけどお袋が物凄く気に入っていた。元春の父親は中2の時に母親は高1の時に亡くなっている。結局高校中退。バイトを転々としていると聞いた。住まいは無い。ネットカフェに泊まったり友達の所に泊まったりしているらしい。面接でここまで言うかと思ったけどそんな所もお袋は気に入ったようだ。結局お袋の一声で採用。住み込むことになった。赤の他人を家に入れる。俺的には少し心配があったのも事実だ。
「私の人を見る目は間違いないわ。あの子は大丈夫よ。お父さん選んだのも私なんだから……」
お袋は訳の分からない事を言っていた。俺の親父。確かに素晴らしい人だった。仕事では妥協を許さない。家庭では俺とお袋に対して無茶苦茶優しかった。目を瞑るとあの笑顔が浮かんでくる。それに俺に造園士としての技術を残してくれたのだから……
お袋の目は確かだった。メキメキと腕をあげる元春。雨で現場が流れるとお袋の仕事である事務も手伝っていた。お袋に習いながら料理もしている。ゴミ出しに掃除。自分から奨んでやっていた。
「あんたが女だったら嫁にきて欲しいわ」
お袋が良く言っていた。歳が近い俺と元春。呼び方も井崎から元春と変わっている。何時しか兄弟のようになっていた。俺と元春は体格も似ている。身長166㌢の俺。元春は165㌢だ。体型は2人共ガッチリしている。服とか良く貸借りした。昨年母親が癌の為他界。今俺と元春は2人で住んでいる。現場、家、遊び。同じ時間を共有する事が多い。
「彼女欲しくないのか」
「ないっすよ」
女の話題になると然もない答えが返ってくる。シャイな元春。俺が一肌脱がねばと思っていた。元春は仕事も家事も良くやってくれる。今夜ちょっと高めの和食屋に連れていく積りだ。現場から家に軽トラで帰る。ちょびっとお洒落した。向かったのは繁華街のある駅。燻し銀のような佇まいの店が迎えてくれた。奥のテーブル席に案内される。俺逹は向かい合って座った。ビールと先付けが運ばれてくる。グラスにビールを注ぎあった。
「お疲れ……」
グラスがカチンと触れ合った。料理が次々と運ばれてくる。酒を飲み料理を堪能した。元春が通ってるジムの事、仕事の事、この前一緒に観に行ったプロレスの事。話は盛り上がった。寡黙な元春。今夜はやけに饒舌たった。俺逹は店を出る。時刻は夜9時を回った所だ。
「明日休みだからもっと飲もうぜ」
「あっいっすね」
カラオケボックスに思いっきり歌った。今馴染みのBARに来ている。元春も何度か連れて来た事のある店だ。小洒落た大人の店。スタンダードジャズが流れている。俺逹はバーボンのロックを飲みながら色んな事を語り合っていた。
「あっ親方やべぇ終電間に合わねぇ」
「あっホントだ。どうする」
「ヒデちゃんレンタルルームならあるぜ。泊まれるか聞いてやろうか」
マスターが声を掛けてきた。
「あっ済まねぇ。頼むよ」
マスターが電話している。
「ツインでいいならあるってさ」
俺は元春に目をやる。元春はコクンとうなずいた。
「マスター、じゃぁ頼むよ」
俺逹は店を後にする。駅に向かって歩いていく。大通りを渡った。
「親方ここみたいっすよ」
中に入るとフロントで鍵を受け取った。白を基調とした清潔感のある部屋。ベッドが2つ並んでる。壁際にはテーブルセットがあった。其々シャワーを浴びる。ガウンを纏った。テーブルを挟んで向かい合って座る。程良く冷えた烏龍茶がカラダに沁みていった。
「寝るぞ」
「うん」
其々ベッドに潜り込んだ。元春の微かな寝息が聞こえてくる。俺もうつらうつらとし始めた。どれ位眠っただろう……股間に温もりを感じた。目を開ける。布団が剥がれていた。ぼんやりと見える黒い物体。目を凝らした。元春……俺のちんぽをしゃぶっている。金玉を摩られた。咄嗟に目を瞑る。どうする俺。起きて元春を制するか……それともこのまま素知らぬ振りをするのか……元春はゲイだったのか……俺のちんぽが元春の口の中でドンドン大きくなっていく。ジュルッジュルッジュルッ…ジュボッジュボッジュボッ淫猥な音が耳に届いた。俺が元春を制したらあいつはどうなる。色んな事が頭の中を駆け巡った。あっ強い快感が押し寄せてくる。金玉の奥で濁流が蠢きだした。ちんぽに舌が絡んでくる。ぎゅうっと締め付けられた。やべぇ……我慢出来ねぇ……俺は元春の口の中で射精した。ゴックン…喉が鳴る音が聞こえる。
「美味ぇ」元春の小さな声が耳に届いた。俺の汁を呑んだと言うのか……今度はクチュクチュと卑猥な音が聞こえる。はぁはぁはぁと荒い吐息が耳に響いた。
「親方ぁ、親方ぁ…好きっす」
クチュクチュクチュ聞こえる隠微な音。
「秀政ぁ、秀政ぁ」
俺の名前を小さい声で呼んでいる。うかつにも俺は目を開けてしまった。元春と視線がぶつかる。狼狽と忘我が混ざったような目をしていた。
「だっ駄目だぁ、おっ、あぁぁぁ、射ぐ、射く、射ぐ」
ドビュッドビュッドビュッ…ビュビュッビュビュッビュビュッ…ビュッビュッビュッ元春のちんぽから白濁汁が噴き上がった。
「おっ、俺……あぁぁ」
元春が頭を抱えてる。何か言ってやらないと……焦るだけで言葉が見つからなかった。
「元春、気持ち良かったか?俺は気持ち良かったぞ」
「俺はって……気付いてたんだ。おっ親方。あぁぁぁぁぁ」
元春は布団を頭から被ると動かなくなってしまった。フォローにならなかった俺の言葉。目を開けてしまったことを後悔した。
「元春……」
応えは無かった。ベッドに入り目を瞑る。何時しか眠りの世界に落ちていた。目覚めの悪い朝。時刻は8時を回っている。元春が居ない。メールが着信している。元春からだ。
”酔ってたし我慢出来無かった。でもやってはいけないことをしちまった。仕事辞めます。今まで本当にありがとうございました”
即座に俺は電話する。元春は出ない。着衣を整える。一目散で帰路についた。大きな不安感が襲ってくる。あいつが居なくなったら……胸が締め付けられるように痛かった。電車に飛び乗る。最寄駅からは走った。玄関を開ける。元春の部屋のドアを開けた。
「何してるんだ」
元春の背後から声を掛ける。元春は振り向こうとはしなかった。
「引越しの準備っす」
「駄目だ許さねぇ。お前は会社にとって大切な奴だからな」
「えっ……」
「それに、お前打ち合わせ中の現場もあるだろ。仕事放棄したら駄目だぞ。そんないい加減な男に育てた積もりはねぇ」
俺は諭すように語った。
「でも……」
「俺はゲイに偏見なんて全くねぇ。堂々と生きろ。いいな」
俺は言い切った。元春の首が縦に振られる。最悪の事態は回避出来そうだ。何時ものように時が廻る。俺も元春もあのことには一切触れなかった。僅かにギクシャクした空気が漂っている。俺の中で何かが芽生え始めていた。元春を違う目で見ている。元春の事を考えてると切なかった。俺がゲイ。今まで感じた事のない感情が湧き上がってきた。元春に恋してる。俺は気付いた。こんなにも強烈か感情は女にも抱いたことのない。元春は会社にとってだけでなく俺にとっても掛け替えの無い存在になっていた。明日今の現場が終わる。俺はあることを考えていた。午後3時施工が終わる。俺達は家路に着いた。
「元春今日ちょっと付き合ってくれよ」
「えっ……」
元春が運転しながら応えた。表情は硬い。あんなことがあって以来少しギクシャクしている。
「居酒屋の食事券あるから今夜は外食しようぜ」
「う、うん」
俺達は一端家に戻る。少し休んでから家を出た。向かったのは俺達の最寄り駅から20分程度の場所にある寺町。町並みが好きで年に一度位は来ている。元春とも2度程来た事がある街だ。
「ここだな」
俺達は暖簾をくぐった。時間は夜6時。客は疎らだ。窓際の席に陣取る。大ジョッキが運ばれてきた。
「お疲れ……」
ジョッキがカチンと触れ合った。視線が交差する。元春の目は沈んでいた。
「なぁ元春」
「そっすか」
然も無い言葉が返ってくる。会話が弾まぬまま食事が進んだ。1時間程で俺達は居酒屋を後にする。夏の生温い夜風がカラダに纏わり付いてきた。
「ちょっと見せたいものがあるんだ」
「えっ……」
「夜景が綺麗なところあるんだ」
「いいっすよ。行きましょう」
ぶっきらぼうな元春の声。今夜俺はその場所で告る積もりだ。ここからだとバスで15分の高台だ。バスに乗り込むと20人程の客が乗っている。次のバス停で若いカップルが乗ってきた。2人ともキャップを深くかぶりサングラスをしている。次の瞬間事件が起きた。
「このバスはジャックされた」
女が運転手に拳銃を向ける。男が乗客達を後方に集めた。女が運転手の耳元で何か囁いている。後方ににじり寄ってくると男に何かを指示していた。女拳銃を俺達に向ける。男は鞄からロープを取り出すと1人ずつ縛り始めた。一人の男が不穏な動きをしている。女が拳銃の引き金を引いた。ズッギュ-ン…
「逆らうんじゃねぇ」
小さな子供が泣き始める。
「静かにさせろ」
女の怒声が車内に響き渡った。母親らしき人が子供を抱きしめる。子供は泣き止まない。男がタオルで子供を猿轡した。騒然となる車内。乗客達は全員腕を縛られた。男と女の視線が交差する。女が顎で男を指図した。
「てめぇら逆らったらぶっ殺すからな。嘘じゃねえぞ」
男が車内を見渡している。俺の前に立ちふさがった。
「そのふてぶてしい顔気にいらねえぜ。立てよ」
俺はゆっくりと立ち上がる。男の拳銃が俺の眉間に当てられた。
「お前をぶっ殺す」
男が静かに声にする。車内はシーンとなった。
「俺の命は呉れてやる。ただ死ぬ前にこいつに言っておきたい事があるんだ。一瞬だけ俺達の縄を解いてくれ。頼む」
俺の重たい言葉に女が動いた。
「解いてやりなよ」
俺は手帳を取り出した。”俺の死後島津造園の全ての権利を元春に譲る”
「遺言状だ。受け取ってくれ」
俺はその紙切れを元春握らせた。
「元春今でも俺のこと好きか」
「ハイ好きっす」
視線がぶつかった。元春は憂いを帯びた表情を浮かべている。
「お前が会社を辞めようとした時胸が締め付けられた」
元春に目を遣る。
「俺はお前の事が好きだと気が付いた。元春、愛してる。お前と知り合えて良かったよ。ちゃんと抱いてやれなくてゴメンな」
「おっ親方」
元春の目から涙がボロボロ流れている。元春の口髭を静かになぞった。両手で?を覆うと唇を寄せていく。元春のカラダが震えている。軽く唇が触れ合った。
「しっかり生きろよ。力強くな」
「おっ、親方……」
形は予定と違ったけど俺は元春に告れた。未練はある。だけどこれも運命だと思った。俺の命はもうすぐ終わる。一滴涙が頬を伝った。男に目を遣る。俺は両手を前に差し出した。
「縛ってくれ」
男が拳銃を後ろのポケットに突っ込んだ。俺の脳裏に野生の感が過ぎる。一瞬の隙を尽き男の後ろに回り込んだ。。男を羽交い絞めにする。男の股間に膝蹴りを入れた。
「うがっ痛てぇ」
”うりゃー”その時元春の足が男の金玉目掛けて蹴り上がった。同時に女の脇にいた若い女性が動く。女に体当たりを食らわした。女の手から拳銃が転げ落ちる。果敢な女性はそれを遠くへと蹴飛ばした。身体がぶるぶる震えている。乗客達から歓声があがった。パトカーのサイレンが聞こえる。バスが停まると警察が乗り込んできた。逮捕される男と女。バスジャックは終焉した。俺達はバスを降りる。数社のマスコミが来ていた。カメラが向けられる。シャッター音が耳に響いた。バスジャック犯は17歳の高校生の熱愛カップル。親に結婚を反対されたと聞いた。女のお腹には新しい命が宿っていたらしい。この日の朝も女はそのことで母親と大喧嘩したと言う。拳銃は女の父親の持ち物だと聞いた。自暴自棄になった浅はかな2人。可愛そうにも思えた。俺を救ってくれたのは21歳の体育会陸上部の女子学生。及川香澄ちゃん。うら若き女性が簡単にできる行動ではない。この女性の行動を俺は嬉しく思った。
「わ、私…感動したの…キュンとなっちゃって思わずカラダが動いていた。この人を死なせてはならないって……」香澄ちゃんのしんみりとした声が印象に残った。俺達は病院に連れてかれる。検査を済ますと開放された。
「親方タクシーで帰ろうか」
「そうだなちょっと疲れたしな」
今タクシーで家に向かっている。隣に座る元春。そっと手を握ると握り返してきた。
[ 2015/06/21 13:59 ] えにし | TB(-) | CM(0)

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