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荒くれ者①

 緑が豊かな閑静な住宅地。薫る風が心地好い。
緑
手頃な土地が見つかって俺は家を建てた。1階にはリビングダイニングと水回り、2階には主寝室と洋室。庭に作った家庭菜園で旬の野菜を作ろうと思っている。傍らを流れる河川、遠くに見える山々。
ベランダからの眺望も中々いい。駅前にあるジムにも通い始めた。嬉しいことに初回カウンセリングの結果は良好。身長172㌢体重73㌔体脂肪率12%だった。引越して1ヶ月。この街にも大分慣れた。親切な人が多い街。特に隣の奥さんは色々教えてくれる。安くて美味い飲食店、評判のいい医者、駅への近道。今日この前教えてもらった散髪屋に行ってきた。アンティークな店構え。口髭を整えいつものように短めのスポーツ刈りにして貰った。チョット嫌な噂を耳にした。かなりの荒くれ者が居ると言う。それは3軒先の稲月さんのことだった。DV(ドメスティックバイオレンス)の為離婚。ご近所トラブルも起こしているらしい。引越の挨拶に行った時は特にそんな印象は無かった。鋭い眼光、ドスの効いた野太い声、強面な顔には顎と口に髭を蓄え頭髪な坊主にしている。外見は確かに怖いかも知れない。だけど話すとそうでもなかった。男臭い風貌。怖いと言うより特別な感情が湧いてきた。こいつを犯りたい。こいつに犯られたい。そんな邪な思いか脳裏を過った。ガッツン……心が抉られそうになる。金玉の中で何か得体のしれないものが蠢いてきた。土曜日時刻は夕方6時。インターホンが鳴った。
「稲月です」
「あっちょっと待ってください」
ドアを開けた。
「知り合いから貰ったんで……」
にっこりと微笑み1杯のイカを俺に差し出した。
「どうもありがとうございます」
「いっすよ。じゃぁまた」
稲月さんの後ろ姿。何かを訴えている。そんな気がした。翌朝、朝食を摂り家事を済ませる。何時ものように家庭菜園に出た。
「おはようございます。精でますね」
「あっ、おはようございます。昨日はどうもありがとうございました。新鮮で美味かったですよ」
稲月さんの明るい声に俺は言葉を返した。
「そうっすか。良かった」
視線が微かにぶつかる。寂しさと嬉しさが入り混じったような俤が伺えた。
「あっ、ちょっと待ってくださいね」
残りのイカで作った大根との煮付け、塩辛を持ってくる。稲月さんに目を遣った。
「これ良かったら食べてくださいね」
稲月さんに差し出すと嬉しそうな笑みを浮かべ受け取った。降り注ぐ初夏の眩しい陽光が俺と稲月さんを照らしている。鋭い稲月さんの眼光。その奥からほのぼのとした優しい光が見えた。荒くれ者とは違う柔和さを醸し出している。俺と稲月さんは交流を持ち始めた。お互いの家を行き来する。たまには飲みにも出た。今稲月さんは俺のことをゲンちゃんと呼び、俺は武秀と呼び捨てにしている。年は俺より3つ下の40歳。身の丈170㌢のガタイ。学生時代やっていたスポーツは剣道と聞いた。趣味は海釣り。付き合う内に少しずつ武秀の事が判ってきた。30歳の時結婚。出来ちゃった婚だと言う。長男慎吾君が生まれ稲月家の新たな生活が始まった。今の家を建てたのは8年前。一見幸せそうに見えた稲月家だったけどこの頃から武秀の環境が変わり始めたと言う。人を傷つけるなら自分が傷ついたほうが良いと思っていた武秀。それがいつしかご近所で荒くれ者と思われるようになった。些細なことでいい争いをする。時には掴み合いにもなったと聞いた。何故……原因は精神的外傷。いわゆるトラウマだ。幾度となく人に騙され裏切られたと言う。知人から買った関数電卓が動作しない。連絡しても電話も通じずメールも配信されなかった。ある友人との約束は3度続けてドタキャン。迷惑メールが急増したのもこの頃だと聞いた。知らない電話番号からの着信。アドレス、電話番号の流出が考えられる。誰がやった?考えられるのは多分だけど…武秀のアドレス、電話番号をを知ってる誰かか?職場では理不尽な理由を突き付けられパワハラを受けたと聞いた。帰宅すると些細なことで奥さんに怒鳴られる。何処にも安らぐ場所はなかった。結局仕事は転職したけど今度は給料未払いだったと言う。結局また転職する。気が付くと人を信じられなくなってたと言う。ちっちゃなルール違反に憤りを感じるようになったと聞いた。
「ゲ、ゲンちゃん、人って信じらんねぇ……」
拳を握りしめワナワナ震えていた。そして致命的な裏切りが2年前発覚。第2子が中々出来ないので武秀は病院で検査受けた。その時の診断結果それは『無精子症』。即ち慎吾君は武秀の実子ではない可能性がすこぶる高いことになる。武秀と奥さんの壮絶な戦いが始まった。事実を明らかにするため行われたDNA鑑定。結果は、”父子でない可能性は99.9%”泥仕合を演じた末離婚。結婚して3年目に一度妊娠したけど流産したと言う。多分その子も他の男の子供に違いない。武秀には精子がないのだから……奥さんは自分のことは棚に上げ近所で武秀の暴力が酷いので離婚すると吹いて回る。それに合わせて住人との間で起きたちっちゃなトラブルが発生。じんわりと悪い噂が広まった。目を合わせようとしない住人達。背後から迫る冷たい視線。武秀は孤独感を味わされ心は荒んだ。荒くれ者と烙印を押された武秀。沈黙を守る道を選んだ。可能な限り人との接触を避ける。食材はちょっと遠くのスーパーでまとめ買いしたと言う。そんな時俺が越してきた。同じ一人住まい。年齢も同じ位。何となく仲良くなれそうな気がしたと言う。体育会出身の武秀。確かにその乗りが少し乱暴に見えるかもしれない。1年前武秀を虐めていた上司は他のパワハラも露呈した。そして懲戒解雇。事情を把握した会社は武秀に復職を提案してきた。抜きんでていた武秀の能力を会社は認めていたらしい。武秀は元の会社に戻った。
「武秀、そんなことあったんだな。でもな頑張って生きてれば理解してくれる人もいるんだぜ。俺もその一人だからな」
「うん、ありがと。ゲンちゃん」
職場での悩みは解決けど俺以外の住民達との会話は今もない。交流を持ち初めて間もない頃、ご飯行く約束をした。武秀と初めての外食。少しウキウキしていた。ところが事故で電車遅延。焦る俺。駅に着くと一目散で待ち合わせ場所に向かった。もしかして居ないかも……過ってくる一抹の不安。でも武秀はいた。表情を強張らせている。鋭い視線を浴びせてきた。
「あっ、ゴメン。電車止まっちまって……」
「30分も遅刻だぞ。連絡位しろよな」
武秀が声にする。語尾に怒気が含まれていた。
「済まん。スマホの充電切れてたんだ」
「また裏切られたかと思ったんだからな」
武秀が寂しそうな目で俺を見ている。
「そんなことする訳ねぇだろ」
突然頭を押さえられ頭突きされた。
「痛ってぇ、何すんだよ」
「へへ遅れてきた罰だぜ」
遅れた俺が悪いのは判っている。だけど”裏切り”なんて危ない言葉がでる状況では無い。俺的にはそう思う。でもそれだけ過去の出来事がトラウマとして根強く残っているのではと俺は思惟した。



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[ 2016/03/27 20:34 ] 荒くれ者 | TB(-) | CM(0)

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