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糸①

 俺は大門 信輝、デイーラーの工場で自動車整備士をしている。身長173㌢のガチムチ体型。34歳になる坊主刈りで口と顎に髭を生やしている。性向はゲイ、ポジションはタチ寄りリバ。専修学校時代男を覚えた。元々女好きだった俺。だが今はすっかり男に嵌っている。をこよなく愛する俺。半常用になった。俺には歳の離れた兄がいる。42歳になる浩一兄さん。15歳の時俺の両親は交通事故で他界した。その時兄さんは若干23歳。俺の親代わりになってくれた。今親の後を継ぎ大門自動車と言う整備工場を営んでいる。俺はそんな兄さんが大好きだった。何時か兄さんの仕事を手伝いたい。俺は自動車整備士になる道を選んだ。専修学校を卒業すると勉強の為今の会社に就職。何れは大門自動車を手伝おうと思っていた。だがその思いは今は無い。俺は24歳の時兄さんにゲイだとカミングアウトした。驚愕の表情を浮かべた兄さんを今でも鮮明に覚えている。兄さんの瞳の奥から蔑んだ光が見えた。
「好きにしろ。但し家の敷居を跨ぐ事は許さねぇ。勘当だ」
ぼそっと声にすると兄さんはその場を立ちさった。”今までありがとうございました。カラダには注意してください。さようなら”メモ書きと鍵を残すと俺は実家を後にした。あれから10年経過する。俺は1度も実家には帰っていない。盆には墓参りには行くけど兄さんに会おうとは思わなかった。今の俺の生活は充実している。仕事にジム通い、そして男遊び。男は何人かの人と付き合った。だが今彼氏は居ない。連絡すればやれる奴はいるけど……仕事に励み、社内研修にも積極的に参加している。整備士を始めて12年。お蔭様で社内的にも一目置かれる存在に成れた。後輩に気になる奴がいる。そいつは勝田 翔磨、30歳。俺と同じように坊主刈りでラウンドの顎髭を蓄えている。実家がkatsuモータースと言う整備工場を営んでいる。何れは後を継ぐと言う。俺は柔道、翔磨はボクシングを学生時代励んでいた。共に格闘技を遣っていた俺と翔磨。家業も一緒だ。何時しか自然に仲良く成っている。11年前に翔磨の兄さんが亡くなったと聞いた。何でも俺と雰囲気が似てると言う。写真を見せられたら確かに若い頃の俺に似てる気がした。そのせいか翔磨は俺の事を兄のように慕ってくる。男の匂いをプンプン発する翔磨。俺は翔磨を弟のように可愛がっている。翔磨の実家にも何度も伺った。家庭料理をご馳走に成ったことも何度も有る。とても柔和なご両親だ。勝田家に行くと何故かほっとする。本音で色んな事を話せた。翔磨は4年前に結婚している。奥さんは愛ちゃん28歳。スレンダーなボディの持ち主でとても可愛らしい。何度か食事に招待された。愛ちゃんの手料理は美味い。性格も気さくで気配りも出来る。素敵な女性に俺は思えた。1人息子の3歳の卓君。俺に懐いている。その姿は愛らしい。俺は翔磨の事を実の弟のように可愛がっている。何度か行ったスパ銭。翔磨のガタイはぶ厚い筋肉で包まれている。毛深い下半身。真ん中の男の証はふてぶてしくぶら下がっている。そんな翔磨にちょびっと下心が有るのは事実だ。ご両親とも何度もご飯に呼ばれた事が有る。柔和なご両親だ。季節は晩夏。街路樹の緑が少し失せていた。そんな或る金曜日、仕事が終わる。ロッカー室に入った時だった。翔磨が頭を抱えている。微かにカラダが震えていた。
「どうした翔磨何かあったのか」
「いえ何でもないっす」
俺の言葉に翔磨が応える。明らかに様子がおかしかった。翔磨に何が有ったのか……あんな落ち込んだ翔磨を見たことが無かった。着替えながら色々考える。俺は翔磨に目を遣った。
「飲み行くぞ」
「えっ……」
俺の言葉に翔磨が声を上げた。戸惑いの表情を浮かべている。俺は少し強引に翔磨を連れ出した。向ったのは近くの居酒屋。暖簾を潜った。中はカップル、グループ客でごった返している。俺達は奥のテーブル席に着いた。中ジョッキが運ばれてくる。ガチンと触れ合せた。
「どうしたんだ」
「……」
俺の声を翔磨は黙殺した。翔磨が悩んでいる。それは手に取るように判った。
「言いたくなったら言えよ。話せばすっきりするかも知れんからな」
翔磨が頷いた。部活にニュースそしてスポーツ。暫らくの間他愛無い会話を続けた。
「先輩、俺さ……」
翔磨が重たい口を開いた。愛ちゃんが些細なことで怒鳴り飛ばしてくると言う。きっかけは卓君に手を上げようとした時だったらしい。翔磨が止めに入る。今度は翔磨に暴言を吐くと聞いた。育児ノイローゼ。その言葉が過ぎった翔磨は出来る限り子育てを手伝っていると言う。嫌がる愛ちゃんを説き伏せて今卓君は翔磨の実家で預かっていると聞いた。最近では暴力を振るってくると言う。コンパスで射されたり、寝ている時に熱湯を掛けられたりすると聞いた。
「それってDVだぜ」
「DV、この俺が……」
俺の言葉に翔磨が応える。寂しそうな表情を翔磨は浮かべた。
「どうすんだ。別れるのか」
「うん、親父もお袋もそうしろって言ってる。でもなぁ卓もいるしよぉ」
翔磨が葛藤しているのが痛い程判った。俺は助言する。取り合えず証拠を集めろと言った。日記をつけ音声を取る。些細な怪我でも病院に行き、診断書を貰えと話した。翔磨は時々愛ちゃんの事を話してくる。それは壮絶なものだった。1箇月程経過する。愛ちゃんの暴力が更にエキサイトしたと言う。包丁を突き付けられたと聞いた。通勤には少し遠いが、結局翔磨は実家に避難する。収まらない愛ちゃん。実家まで押しかけ、警察沙汰になったと言う。離婚を渋っていた翔磨。この時心が大きく動いた。曇天の空から光が射している。季節は初夏を迎えた。離婚が成立する。親権は翔磨が貰った。誰が悪い訳ではないと思う。縺れた糸は元に戻る可能性が有る。だが途切れた糸はもう戻らないと俺は深慮した。何時ものように時が流れる。今日は土曜日ジムに行って筋肉を苛めてきた。スマホが電話着信を報せる。翔磨からだった。
”先輩、親父達が御飯食いに来ないかって言ってる”
”判った。行くよ”
西の空に陽が傾き始めている。
西日
俺は翔磨んちへと向った。電車を乗り継ぎ1時間20分。駅前で親父っさんの好きな酒を調達する。俺は翔磨んちへ着いた。夕闇が夜の黒に包まれている。俺は翔磨んちのインターホンを鳴らした。ドアが開く。翔磨のお袋さんが出迎えてくれた。卓君が走ってくる。健気な表情を送ってきた。
「小父ちゃんだっこ」
「よ~し」
俺は卓君をだっこする。優しく頭を撫でてやった。リビングに通される。俺達はテーブルを囲んだ。翔磨のご両親が柔和な眼差しを送ってくる。俺達はグラスにビールを注ぎ合った。
「お疲れ……」
翔磨の親父っさんが声を上げる。俺達はグラスをカチンカチンと触れ合せた。
「僕も……」
「判ったよ」
俺はジュースが入った卓君のグラスに俺のグラスを触れ合わせる。カチンと触れ合う音がやけに穏やかに耳に響いた。宴が始まる。色んな話で盛り上がった。
「大門君、今回はありがとな。あんたが居たから救われたよ」
「とんでもないっす。頑張ったのは翔磨っすよ」
親父っさんの言葉に俺は返した。酒がビールからお土産に持ってきたバーボンに代わる。顔が少し熱くなってきた。時刻は9時に迫っている。和やかな中、食事会は終わった。
「じゃぁ俺そろそろ帰るな」
「あっ駅まで送ってくよ」
俺の声に翔磨が応える。俺達は翔磨んちを後にした。街は夏を迎える準備をしている。夜風が酒で火照ったカラダを撫でてきた。
「先輩、何かお礼させてくださいよ」
「お礼なんかイラねぇよ」
翔磨が視線を飛ばしてきた。
「何か欲しいもの無いっすか。プレゼントしますよ」
翔磨が言葉にした。俺の中の黒い天使が囁いてくる。おまえの欲しいものを貰っちまえ……心の中から黒い言葉が響いてきた。
「お前が欲しい」
俺はぽつりと声にする。翔磨がキョトンとしていた。

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[ 2016/11/27 15:15 ] | TB(-) | CM(0)

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