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髭の僧侶④

 週末は必ず泊まり掛けで逢いに行った。
夜 (8)
夜は激しく盛り合い、日中はお寺の仕事を手伝う。平日も都合が付く限り逢いに行く。そんな暮らしか3ヶ月ほど続いた。
「なぁ信勝、この際越してこねぇか」
「えっ…そうしたいけど此処からだと通勤がしんどいっすよ」
「ならば此処に就職しろ」
「えっ……」
俺がこの雄睾寺に就職…まさか……ええっ俺は驚愕した。
「実はな本山から連絡が有って3箇所の住職がいない寺も見て欲しいらしい。俺1人じゃ無理だ。忙しい時は本山からの応援も頼めるけど出来ればお前と一緒にやりてぇ」
「えっ…それって俺が僧侶になるってことかよ」
「あぁそうだ。お前には素質有る気がするからな。嫌か」
「嫌も何も、突然言われても……」
「そうだな。考えてくれよ」
突拍子もない将崇さんの提案に戸惑った。狼狽の色を隠せない。転職、それも僧侶に……葛藤した。今の仕事嫌ではない。だけど不況のあおりを受けているのも事実だ。現に数人リストラされている。悩んだ。そして深慮したあげく答えを出した。腹をくくって仏門に入る。
「よく決心して呉れたな。嬉しいぜ」
将崇さんの声は明るい。
「何だよ。そんな顔して可愛い顔台無しだぞ」
将崇さんの言葉が続く。両手を俺の肩に置いた。
「不安だろうけど俺が付いてるからな。一生俺が守ったるからな」
「うん」
ギュッと抱き締められる。将崇さん優しさと強さが伝わってきた。この日から猛勉強が始まる。思うように覚えられた。将崇さんは優しく親切に教えてくれる。何時しか仏事の勉強が楽しくなった。俺と亮一の両親にこの事を伝える為今車を転がしている。助手席に乗る将崇さんがぽつりと声にした。
「こうやって出掛けるの初めてだな」
「うん、何か凄ぇ嬉しい」
最初に俺んちへ向かった。もうカミングアウトは済んである。だけど仏門に入るという事には驚いていた。将崇さんが俺には僧侶になる素質があると熱く語る。俺も僧侶になり仏事に励みたいと語った。将崇さんとの愛の深さも語る。俺の両親は理解してくれた。次に亮一の家に向かう。亮一のご両親は自分達の事のように喜んでくれた。俺が新たに進む道。それは雄睾寺の僧侶に俺がなるという事と新たな恋を見つけた事だ。
「信勝君、おめでとう。将隆さん宜しくお願いします」亮一の父親が目を細めていた。
「ハイ、こいつを立派な僧侶にしますよ。そして明るい家庭も築きます」
俺を実の子供のように思ってくれる亮一の両親。この暖かい眼差しを俺は生涯忘れない。
「信勝、良かったな」
「うん」
[ 2015/03/14 20:16 ] 髭の僧侶 | TB(-) | CM(0)

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