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1枚の写真②

 俺達は一緒の時を刻み始める。温泉、映画、遊園地。いっぱい思い出も出来た。部屋で映画DVDを見る。流れる涙をそっと拭ってくれた。この前行ったバス旅行。風が心地よい緑の季節。
緑
青い空。見上げるとぽっかり雲が浮かんでいる。ビワ狩りとデカのせ放題丼って言うバスツァー。俺達を乗せたバスが動き始める。俺は車中はしゃいだ。最初に行ったのはデカ乗せ放題丼の店。俺もたっちゃんも海の幸ドッサリのせた。新鮮な魚介類が盛り沢山な丼。凄ぇ美味かった。次に行ったのがビワ園。いっぱい食った。口に頬張るとジュワーッと甘さが広がってくる。たっちゃんと目が合った。顔が綻んでいる。
「美味ぇな」
「俺、たっちゃんの汁の方がいいや」
「バカたれ」
ゲンコツでコツンと小突かれる。今度は2個実が付いてる所採って舐めてみた。
「何してんだ?」
「たっちゃんの金玉しゃぶりてぇ」
またコツンとされる。口尖らせて拗ねてしまった。後で人気のない所でチュッとして呉れる。直ぐに機嫌が直った。バスの中でさり気なく手を触れさせる。回りを気にしながらも握って呉れた。時折交わる視線。何か眩く感じた。
「たっちゃん俺さ……」
「バッカだなぁ」
会話は尽きなかった。たっちゃんと居るととにかく嬉しい。言葉も自然に多くなる。それに心が落ち着いた。
「今晩どうすんだ」
「勿論泊まりにいくよ。駄目かよ」
「駄目な訳ねぇだろ」
いい年して甘えん坊。直ぐ拗ねたり泣いたりする。こんなガキみてぇな俺と真っ正面から向き合って付き合って呉れる。そんなたっちゃんが大好きなんだ。逢うのは最初週に1回位だったけど今は週に3~4回位はたっちゃんのマンションに泊まりに行ってる。料理、洗濯、掃除。たっちゃんの身の回りの世話してると最高に幸せを感じる。何時だったか俺の住んでる所の話した事が有った。
「えっそこって俺子供の頃住んでたぜ。河原でよく弟と遊んでたんだ」
「弟さんいたんだ」
「うん、居た。実はさ親父とお袋俺が5歳の時離婚したんだ。俺は親父に引き取られ弟はお袋に引き取られたはずなんだ。俺も良く覚えてないけど、確か2つ下だから生きていたらお前と同い年だな」
たっちゃんのご両親が離婚。俺と同じだ。俺が3歳の時に俺の親は離婚している。もしかしてたっちゃんが実の兄貴……
「ワンコいてさ。可愛かったなぁ」
「犬飼ってたんだ。俺もだよ」
これも一緒だ。俺は葛藤する。悶々としてきた。
いつものように時が流れる。会社に行く。たまにジムで鍛える。そしてたっちゃんと一緒の時間を過ごした。生活は充実している。ひとつの事を除いては……
あれは俺が20歳の時だった。
「隼汰、話があるからちょって来て……」
「えっ何だよ」
座卓を挟み向かい合って座った。お袋の目が真剣になっている。
「隼汰、実はね……」
お袋が語り始めた。声が微かに震えてる。親父は交通事故で亡くなった訳ではなかった。俺が3歳の時に離婚したと言う。親父は2つ上の兄を連れて家を出て行った。
「御免ね。あんたが成人したら話そうと思ってたから……」
「話してくれてありがとう。俺はお袋が居ればそれで良いからさ。あっ肩揉んでやるからな」
ほんの少しビックリはしたのは事実だ。生きていれば何処かで会えるかも知れない。だが捜そうとかは思わなかった。渡された1枚の写真。ずっと机の引き出しの奥で眠っていた。幼少期の環境があまりにも似ている。悩んでいても埒があかない。俺は動いた。伯父ちゃんに兄の名前を聞いてみる。名前が違えば兄弟では無いと思った。無情な答えが返ってくる。兄の名前は鹿島龍生。たっちゃんと名前も一緒だ。100%ではないかも知れない。兄弟の可能性は極めて高いと思った。愕然とする俺。狼狽えた。このまま付き合おうと思えば付き合える。でもこのもやもや感を残して付き合うのはちょっと辛い。もし兄弟だと判ったら恋人では居られないかも知れない。無茶苦茶悩んだ。頭の中がこんがらがる。でも俺は確認してみようと決断した。今たっちゃんのマンションでテーブルを挟み向かい合い座っている。
「たっちゃん、大事な話があるんだ」
「えっ…大事な話」
「うん」
今俺はあの写真をたっちゃんに見せようとしている。心臓音が早鐘のように高鳴った。喉がからからに乾いてくる。俺は重い口を開いた。
「たっちゃんこの写真見覚えねぇか」
たっちゃんの表情が一変する。俺とお袋そして知らない男の人とやんちゃそうな坊やが映っていた。
「えっこれってえっどういう事だよ。若い頃の親父と俺だよな。な、なんでお前持ってるんだよ?」
「お袋から渡された。ずっと机の中にしまってたけどな」
たっちゃんの顔がどんよりと曇った。
「俺の兄貴と親父だって言ってた」
「俺、実の弟を抱いていたんだな」
「多分…そうなる」
たっちゃんは狼狽している。長い沈黙が続いた。
「なぁ隼汰、その写真借りてもいいか」たっちゃんが重たい口を開いた。
「うん。いいよ」
俺はぼそっと声にする。心が掻きむしられるように焦った。どうしていいのか判らない。視線が交差する。瞳の奥から愁いを帯びた光を放っていた。俺たっちゃんを困らせてる。大好きなたっちゃんを……僅かな後悔が襲ってきた。
「じゃぁ俺帰るな」
「うん判った」
俺は席を立った。いつもなら見送ってくれるたっちゃん。今日は無かった。勿論お別れのキッスも無い。ドアを開ける。ガシャッと締まった。涙がボロボロ流れてくる。俺は運命を恨んだ。
[ 2015/05/30 23:34 ] 1枚の写真 | TB(-) | CM(0)

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