そんな或る日、慎太朗君が事務所に訪れた。
「お久しぶりっす」
頭髪は坊主刈りにしている。口髭を生やしていた。
「男臭さくなったな。髭似合ってるぜ」
「へへ、此処の皆さん髭、坊主の人多くてカッコ良かったから俺も真似してみました」
俺の声に慎太朗君が応える。がっちりした体躯に坊主刈り。髭が男らしさを醸し出している。俺達はテーブルを囲んだ。
褌に筋肉そして男。3人の従兄弟達の会話が弾んだ。
「俺、独り暮らし始めたっす」
満面の笑顔を向けながら俺と勇児に声を掛けてきた。
「ここから30分位なんすよ。それに会社にも近くなった。これでもっと遊びに来れるっす」
「なぁそれなら、バイトしねぇか」
「えっ……」
俺の言葉に慎太郎君はちょっと戸惑っていた。
「癒し庵と乱
褌館のフロント探してるんだよ」
勇児が声にした。
「そっすか。いっすよ。実は独り暮らしになって金掛かるんで何処かでバイトしようと思ってたんすよ」
慎太朗君が声を上げる。笑顔が輝いていた。
「じゃぁ頼むな。これからは慎太朗って呼び捨てにするけどいいよな」
「あっいっすよ。俺もカツ兄ぃ、勇児兄ぃって言ってもいいっすか」
俺の声に慎太朗が言葉を返した。来週から慎太朗君は癒し庵と乱
褌館のシフトに入る。オフィス漢はまた新たな力強い仲間を迎える事となった。季節が巡りる。本格的な秋を迎えた。街は色づいている。親っさんの一周忌が近づいたある日、飲みにでた。メンバーは俺、勇児、宗嗣、忠之、武蔵…そして慎太朗。行ったのは良く行く小料理屋だ。俺達は隅っこのテーブル席に着く。大ジョッキが運ばれてきた。
「お疲れ…」
俺の音頭にカチンカチンとジョッキが触れ合った。疲れたカラダにビールが沁みる。料理を食いながら、酒を飲だ。話題は尽きない。話が一周忌の事に成る。勇児が視線を飛ばしてきた。
「なぁ兄貴、俺さ陽介の事何となく許せるように思えるんだ。あいつ悪い奴じゃねぇよな。あの事、不可抗力だと思えるようになった」
勇児がぼそっと声にした。
「俺もなんだ。親っさん最後にお前らと同じ匂いするって言ってたろ。俺あいつと一緒の事多いから家族の事聞いてみたんだ。そしたら親に捨てられて施設で育ったらしい」
武蔵がしんみりとした声で話した。
「えっ……」
俺と勇児の声が重なる。陽介の緊急時連絡先電話番号を検索してみた。
「勇児見てみろよ」
スマホを勇児に見せる。そこは某福祉施設。俺と勇児は愕然とした。
「結構苦労したらしいぜ。どうにか決まった就職先をあの事が原因で首になってらしいんだよ。住んでた寮も追い出されて公園で寝泊まりしたり友達んちを転々としてたらしいぜ」
忠之が言葉を続けた。その時親っさんに拾われた頃の事が蘇る。色んな事が頭の中を駆け巡った。それは勇児も同じだと思う。表情が複雑に変化していた。
「だから寮に入りたかったんすね」
「親っさん、何かを感じ取っていたんすね。だから大目に見てくれって言い残したんすね」
忠之の言葉に宗嗣がぼそっとした声で応える。親っさんはわざわざレコーダーに最後の言葉を録音までした。親っさんは警察沙汰になることを見透かしていたと思う。もし裁判になったら陽介が少しでも有利になるようにとの計らいだったのかと俺は深慮した。
「でも一番そう思ってるのは兄貴だよな」
勇児が言い放った。
「えっ……」
その言葉に心が動揺した。澤辺 陽介。一途な目を俺に向けてくる。探究心旺盛に仕事に打ち込む陽介。性処理させると至福な表情を浮かべる。一緒に居るとほっこりしてくるのは事実だ。
「兄貴、あいつに性処理させてるうちに情が移った。ホストとしてではなくひとりの男として好きと言う感情が生まれている。そしてあの事不可抗力だと思えるようになった。図星でしょ」
勇児が俺に説いた。
「俺が陽介に恋……えっ」
「そうっすよ」
俺の声に勇児が応えた。確かに陽介に特別な感情を持っている。この気持ちって恋なんだ。俺の中で何かが燻っている。好きと言う感情の火種だったのかも知れないと思えた。
「勇児ありがと。今判ったよ。お前の言う通りだぜ」
「あいつも兄貴のこと、好きっすよ。兄貴を見る目特別だもんな」
俺の声に勇児が応える。勇児が慎太朗を見ると言葉を投げ掛けた。
「慎太朗はどうなんだ。お前は唯一親っさんの血を引く訳だからな」
「最近随分仲いいみたいだしな」
宗嗣が言葉を足した。
「俺さ、最初ムカついてどうにかしてやろうと思ったけど一生懸命仕事しているし、俺にも直向きに接してくるんだよ。今慎兄ぃって慕ってくるようになったんだよな。あいついい奴っすよ。あれは仕方ないこだったんだと思ってる」
慎太朗が明るい声で言う。ただその表情の中に微かだ寂しそうな翳りが見えた
「判った。あいつを許そうぜ。親っさんもきっとそれを望んでるからな。一周忌にあいつも連れてくぞ。いいな」
俺の声をにみんなが頷く。その表情はやけに明るく感じた。
「もう1回乾杯するぞ」
俺が声にする。6つのジョッキが触れ合った。その音色は幸せ色に響いている。妙に穏やかな気持ちになった。
翌日駅で勇児と忠之と遭遇する。事務所迄行くと陽介が外回りを掃除していた。視線が交差する。明るい声で俺達は挨拶を交わした。
「陽介、再来月親っさんの一周忌だからな。礼服用意しとけよ」
「えっ……」
俺の声に陽介が応える。明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。
「お前も参列するんだよ」
「いいんすか?」
「ああ、いい」
陽介は事情が呑み込めないのか目を見開きぼんやりとしている。その可愛い表情を見ると心が綻んだ。
「お前の償いはもう終わりだ。みんなが認めてくれたからな。一周忌で親っさんに報告する」
勇児が言葉を足した。
「は、はい」
陽介の応えが爽やかに響いた。
「よく頑張ったな」
「お、俺……」
俺の声に陽介が応える。陽介と視線がぶつかった。ようやく状態が理解出来たらしくニッコリと微笑みを浮かべている。オフィス漢の1日が何時ものように動き始めた。倭雄舎、乱
褌館、癒し庵。3つの店舗の雑務を孰なしながらホストの業に携わる陽介が居る。いつもより溌剌としているように見えた。俺は目を瞑る。陽介との出会い、そして怒り。色んな事が頭の中を駆け巡った。陽介を見るたびに胸が息苦しいほど甘美な気分に捉えられる。俺はある決意をした。
「陽介、今日予定有るのか」
「無いっす」
「じゃぁ終わったら飲みに行くか」
「えっ……」
唖然とした表情を浮かべる。無理もない。今まで一緒に出掛けたことがないのだから……
「嫌なのか」
「えっ、嬉しいっす」
陽介の目がキラキラ輝いた。仕事が終わり陽介と出掛ける。公園の街燈が優しく俺達を照らしていた。
俺の気分が少しばかり高揚している。小洒落たBARのドアを開けた。一番奥のテーブルに向かい合って座る。陽介がちょびっと強張っていた。
「良かったな」
「ハイ」
俺の言葉に陽介が応える。カクテルが運ばれてきた。俺はソルティドック陽介はキューバリバー。トールグラスをカチンと触れ合わせた。
「緊張してるのか」
「ハイ、ちょびっと……」
アルコールが少しずつ気分を解してくれる。色んな事を語り合った。陽介の頬がほんのり桜色に染まっている。俺は陽介に視線を飛ばした。
「陽介、俺さお前の事好きだって気付いたんだ」
「えっ……」
「ホスト引退して俺だけの者になれよ」
「えっ……」
「嫌かよ」
「嫌じゃないっすよ。だって俺も勝政さんの事好きっすから……でも……」
困惑と至福が混ざったような複雑な表情を浮かべた。
「これからは俺と勇児の仕事手伝えよ」
「う、うん」
「寮出て俺んちに住め」
陽介が真っ直ぐに俺を見てくる。その目に汚れは微塵も感じなかった。
「えっ……いいんすか」
「あぁいい」
「判りました。俺勝政さんの者になるっす」
「じゃぁもう1回乾杯だ」
トールグラスをカチンと触れ合わせた。
「陽介、武蔵から聞いたけどお前身寄り無ぇんだろ」
「あっ、は、ハイ」
「じゃぁ籍入れて俺の息子になれよ」
「えっ、でも……」
陽介は混沌とした表情を浮かべる。そして一端俯き、また顔を上げた。
「俺、大斗って言うガキいるんす」
「えっ……」
陽介の言葉に俺は驚愕した。
「あいつと俺の子供っす」
「あいつって誰だよ」
「あの事件の時一緒に居た女っす」
陽介が淡々と言葉を続ける。
「連絡してもスルーされてたけど1ヶ月前に会ったんすよ。赤ん坊抱えてた。俺の子だって……1人で育てようと思って生んだらしいけど、新しい男が出来て邪魔になったらしいっす」
陽介が俺に目を呉れた。
「俺にガキ渡すと逃げるように立ち去っていった」
「その子は今何処にいるんだ」
「俺が育った施設っすよ」
「近いうちに引き取りにいく」
「えっ……」
「バカやろ。子供は親と一緒に住むそれが一番なんだ。お前判ってるだろ」
陽介の目に涙が溜っている。一滴頬を伝った。
「お前は知らねぇと思うけど俺も勇児も施設出身者なんだ」
「えっ」
「親っさんの養子にして貰った」
「えっ」
「今度は俺がお前とガキの面倒を見る。いいな」
「勝政さん……」
溜っていた陽介の涙がボロボロと流れ始めた。
「泣くな。俺が苛めてるみてぇだろ」
そっとティッシュを渡した。泣顔の中にキラリと輝く何かが見える。BARを後にすると陽介の住む寮に向かった。
「大して荷物ねぇな」
「うん」
「これなら俺の車1台で済むな。近いうちに引っ越しするぞ」
「うん」
陽介と視線が交差する。一途な目を向けてきた。
「とっ、父ちゃん」
「えっ、父ちゃんかそうだよな。いいぞ。そう呼んでイイからな」
ギュッと抱きしめてやる。俺の胸の中でボロボロと大粒の涙を流しているのが判った。
「なぁ陽介、お前ここに来てから強くなったよな。だけど俺の前では弱さ見せていいんだぞ。泣きたい時は思いっきり泣け。でもな大斗の前では強い父親でいろよ」
「うん」
悲惨な暮らしをしていた19歳の頃の俺。そんな俺を親っさんに拾われた。だから今の俺が居る。それなりに稼げるようにも成った。今度はこいつを守る。俺は深く心に思った。
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