翌日何時ものようにオフィス漢は動き始める。事務所の窓から覗く空。重たい雲が覆っている。
全体昼礼を行った。俺達は親っさんの死亡を伝える。愕然とするスタッフとホスト。嗚咽が室内に響く。俺達は掛替えのない人を失った。
「親っさんは亡くなった。だから親っさんの残してくれたオフィス漢を必死で守っていかなければならない。いいな」
俺は声を張り上げた。
「おお」
男達の威勢のいい応えが返ってきた。俺達は葬儀の準備を始める。親っさんの実家と妹さんへの連絡は避けた。
「俺にはもう親も兄弟もいねぇよ。お前らだけが唯一の家族だからな」
寂しそうな目をして俺と勇児に話した事があった。
「俺に万が一の事があっても連絡するなよ。それに俺は実家の墓に入る積りは悠豪寺ってとこに墓勝ってあるからな。今度連れてってやるよ」
親っさんは言葉を続けていた。そう言えば親っさんが肝臓の病気で入院してた時妹さんが見えたらしいけどお見舞いの言葉は一言も無い。その時まだ俺も養子になってなくて親っさんには家族が居なかった。止むなく連絡先に実家をあげたらしい。その事に不快感を示し激しく罵倒し帰っていったと聞いた。通夜が終わり今日は葬儀。信秀さんと久しぶりで会った。
「勝政、勇児、久しぶりだな。気持ちを強く持てよ。これからはお前らがオフィス漢を守っていくんだぞ」
信秀さんが声にする。目が真っ赤になっていた。
「ありがとうございます」
俺と勇児は深々と頭を下げる。受付に1人青年が見えた。記帳簿を見ると宮崎慎太朗と記載されている。宮崎……俺は感ずるものがあった。確か嫁いだ妹さんの苗字が宮崎の筈。その子供、親っさんは甥っ子を小さい時かなり可愛がっていたはずだ。確か名前は慎太朗と言ってた気がする。俺は青年に目を遣った。
「もしかして親っさんの甥っこさんですか?」
「ハイ、新聞の訃報欄を見たものですから……母に言ったら行く必要がないと言ってましたが内緒で来ちゃいました」
まだあどけなさが残っているその顔付きはやけに爽やかに映った。
「そうかぁ。親っさん喜ぶぞ。もう直ぐ葬儀が始まるから中に入ってくれよ。勇児案内してやれよ」
「あぁ判った」
俺の声に勇児が応える。慎太朗君は勇児と共に本堂へと入って行った。葬儀が始まる。厳粛な儀式だ。ゴーンと鐘が鳴る。ポクポクポクと木魚がなった。僧侶の枕経が心に沁みる。遺影の親っさんと目が合った。やるせなさが込み上げてくる。多くの人に見送られながら親っさんは黄泉の国へと旅立った。葬儀後のお斎が始まる。亡き親っさんの思い出話がしんみりと語られた。
「尊宣伯父さんってやっぱりいい人だったんですね」
「うん、俺達ってどうしようもない半端者だったけど親っさんに救い上げられたんだ。俺と勇児は施設育ちなんだよ。そんな俺達を息子にしてくれたしな」
慎太郎君の言葉に俺がぼそっと応えた。
「えっ……」
慎太朗君がキョトンとしていた。
「慎太朗君とは従兄弟になるんだぜ」
勇児が言った。
「そ、そうなんすか」
「ああそうだ。これからも宜しくな」
俺が手を差し出すと握手してくる。今度は勇児と握手していた。
「慎太朗君の伯父さんはこんな会社やってたんだぜ」
俺が名刺を手渡すとじっと見ている。裏面を見ると表情が変わった。
「興味あるのか?」
コクンと首が縦に振られた。
「はい、俺もそうなんです」
慎太朗君が俺を呉れる。次に勇児に目を遣った。
「うちの母さん、かなりきつい性格で父さんと喧嘩すると父さんに罵声浴びせるんだ。しょっちゅう見てたら女って怖いなって思って……男と一緒の方が楽しくて気付いたら
ゲイになってたんですよ」
「良かったら今度遊びに来いよ」
「ハイ……」
俺の言葉に慎太郎が応える。顔が綻んでいた。
3日後警察から連絡が有り、犯人が自主してきたと言う。男は澤辺陽介、女は佐藤香織ともに19歳。女が”あのおっさん驚くとこ見たい”って言いだしたと言う。ほんの悪ふざけの積りでやったと聞いた。そんな理由で……沸々と憤りとやるせなさが込み上げてくる。脅しと死亡の因果関係が認められ2人は送検された。結局佐藤香織は起訴猶予、澤辺陽介の裁判が開始する。俺達は悩んだ。親っさんの肉声が入ったあのテープ。嘆願が含まれる内容だ。ただ親っさんの遺志を尊重したい。俺達は警察に提出した。オフィス漢は何時ものように動き始める。男達の欲望を満たすために……
大噴火
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