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色に染まる⑧

 初夜が明ける。新居で新しい朝を迎えた。カーテンを開けると眩いばかりの陽光が射し込んでくる。俺と雄真の新しい時が刻まれ始めた。雄真が珈琲そ啜りながらパソコンを覗いている。見上げる雄真。目が輝いていた。
「ここ行くか」
「えっ……」
「ほら施設も充実してるし、刺青もOKみたいだしな」
「いっすね」
向ったのはスーパ銭湯だ。
「そう言えば一緒に出掛けるの初めてだな」雄真がボソッと口にした。確かに郷さんの所に行ったりサブさん逹とお茶したりはあったけどデートらしい事はしていない。何気に心が浮いた。車を出す。運転するのは俺、助手席には雄真がいる。初デート車中で会話も弾んだ。車を転がす事40分。小高い丘の上にあるスーパー銭湯に着いた。入口を入る。料金を払いタオルセットを受け取った。
脱衣所に行くと1人の兄貴がを解いている。背中には龍の刺青が入ってた。中に入る。チラホラと刺青の兄貴、親父を見掛けた。
「ここ結構いるんすね」
「そうだな」
何となく親近感が湧いた。
風呂を上がりマッサージを受ける。食事を摂るとまた風呂に入った。露天風呂に並んで浸かる。そっと手を握り合った。すると1人の親父が近付いてくる。背中には火消しの刺青が入っていた。
「よぉ」俺逹と向かい合い座る。そっと手を放した。
「あっどうも……」
突然の声掛けに一瞬戸惑ったけど俺は応える。雄真は隣で微笑んでいた。
「何処で彫ったんだ」
「郷って言う刺青屋っすよ」雄真が応えた。
「やっぱりな。図柄が郷さんっぽいもんな。俺もそうなんだ」
「へぇ世間って狭いもんすね」雄真が感心した様に声にする。共通の話題を持った俺逹。会話が弾んだ。
「あれっ兄さん逹もしかしていい仲なのか」
親父が俺逹の左腕の刺青に
「えっ……まぁそうっすね」ハニカミながら雄真が声にした。
「腕に名前入れてるもんな。雄真に貢佑か。俺も昔はな……幸せになれよ」
「ありがとうございます」
屈託のない笑顔を浮かべ親父は立ち去った。
「好い人だな」雄真がしんみりと声にする。
「そっすね」俺もしんみり応えた。陽が傾き始める。空が茜色に変わった。
「貢佑」
「ん」
「帰ろうか」
「うん」
俺逹はスーパー銭湯を後にした。運転する雄真。俺は助手席に座った。
「いいところだったな」
「うん、また出掛けような」
刺青を入れた客達の事、刺青親父が放った意味深な言葉。車中の会話も弾んだ。
「なぁ貢佑」
「ん……何」
「落ち着いたらさ、新婚旅行にでも行くか」
「わぁいっすね」
「いっぱい稼いで海外にでも行こうぜ」
「そっすね。明日から仕事だ。頑張るぞ」
車は俺達を乗せ一路我が家へ向かった。一線を終え一丁でベランダに出る。まだ風が冷たい季節。心は火照り寒さを感じなかった。
「貢佑幸せにしてやるからな。お前は俺の連れ合いであり息子だしさ。これからは俺が守っていくぜ」
「うん、俺も雄真を守っていくな」
「これでよかったんだよな」
「うん俺さ、雄真に会ってから色んな事教わった。でもさ一番は人を愛することの大切さを教わったことなんだ」
「貢佑…愛してるぞ。これからもずっとだかなら」
「うん、俺も愛してる」
雄真の顔が近づいてくる。両頬が温もりのある手で覆われた。目を瞑る。唇と唇が触れあった。薄く開いたところから舌が挿いってくる。舌を絡ませ合いながら俺は雄真の背中に腕を回した。抱きしめ合いながら雄真の心を感じる。永くて切ないキッスが終わった。結婚の記念に自費出版した刺青野郎の恋。俺達の写真集だ。撮影は郷さんが結婚祝いにと紹介してくれた写真館。プロのカメラマンに撮って貰った様々な画像。キス、ハグ、縛り。俺達を晒した。顔は判りにくいように撮ってくれたけど見る人が見れば俺達と判ると思う。それはそれでいい。俺達の愛の集大成だからだ。販売はBook's FINDの単独販売。この写真集も好調に売れている。応援メッセージも沢山頂いた。サブ、テツそして郷さんも喜んでる。この前3人で”雄”に見えた時に写真集を渡した。
「中々いい仕上がりだなカッコいいし綺麗だぜ」郷さんが言う。テツもサブも頬を赤らめながら写真集を見ていた。
「男同士も悪くねぇな」サブがぼそっと言う。
「そうだな」テツもぼそっと声にする。もしかしてこの2人……そんな気もした。
挙式後2ヶ月が経った。忙しい毎日が続いている。夕方まではBook's FINDで仕事。注文品の発送、送られてきた本の整理、ホームページの更新。古書の出張買取に行くこともある。色々雄真が手伝ってくれるので有難い。夜7時俺は”雄”に入店する。俺達は其々の仕事を手伝いあう。勿論家事は分担している。朝から夜まで働き詰めだけど苦にもならない。仕事を楽しんでるからだ。それに大好きな奴といつも一緒に居られる事がこの上なく嬉しい。多分それは雄真も一緒だと思う。
夜11時。雄の暖簾を入れた。
「お疲れ様、ありがとな」
「とんでもないっす」
俺達はありがとうの言葉を忘れない。
「帰るぞ」
「うん」
雄真は俺の事を何でも見通している。俺の中に棲んでたM性も覚醒させてくれた。を締めること、緊縛そして刺青。俺は雄真の色に染まった。また新たな時を歴史を刻み始めてる。そして俺は更に色濃く染まっていくに違いない。
春の芽吹き (22)
俺達は春を迎えた。
[ 2015/02/07 19:16 ] 色に染まる | TB(-) | CM(0)

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