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色に染まる⑥

 ”近いうちに店来てくれ大事な話があるんだ”雄真からのメール。
えっ大事な話ってなんだよ……
”じゃあ今晩行くよ”
夜10時”雄”の暖簾を潜った。ほぼ満席の店内。俺はカウンターの隅に座った。徐々に客が返っていく。11時”雄”は閉店した。
今カウンターに並んで座っている。
「なぁ大事な話ってなんだよ」
水割りを作ってグラスを渡した。ゴクゴクと一気に飲む雄真。
「なぁ貢佑、俺お前を引きずり込んでしまったな」
「えっ……」
「縛りも覚えたし、刺青も入れた」
「でも後悔してないぜ。縛られた時、ちょびっと怖かったけどな」
雄真が直向きな目で俺を見てきた。
「お前も俺も天涯孤独みたいなもんだろ」
「うん」
「結婚しないか。これから2人力合わせて生きていかねぇか」
「えっ……」
突然の雄真の提案に一瞬たじろいだ。
「俺にはお前が必要なんだ。俺と所帯持ってくれ」
目を瞑り今までのことを思い返した。串焼き屋”雄”の大将、雄真。ちょびっといいなって思っていた。そして一線を越える。精液を呑むことも覚え挿れられる喜びも教えてくれた。縛りに刺青。ちょっと戸惑ったけど俺は雄真の提案を呑んだ。雄真は俺の隠れた素質を見抜いてたのかもしれない。それに多分だけど俺の心の何処かに雄真色に染まりたいって願望が有った気がする。今度は結婚しようと言う。どうする俺。
「雄真キツく抱いてくれよ」
「あぁ判った」
雄真に抱きしめてもらう。雄真の薫りに包まれる。ずっとずっとこの薫りに包まれていたい。もっと雄真色に染まりたいと思った。
「判った。俺にもお前が必要だ」
「そうかぁありがとな」
俺達は将来を語りあった。仕事の事、住まいの事、そして俺達の事。静かに夜が過ぎていった。
数日後。雄真にメールする。
”俺決断したぜ”
”判った。俺も協力するからな”
雄真から返信された。
Book's FINDはネット販売のみにする。日中Book's FINDの仕事を熟し夜は”雄”のカウンターに入ることにした。大将も俺の仕事を手伝ってくれることになっている。殆ど来客のないBook's FIND。忙しくなってきた”雄”。かなり葛藤したけど俺は決断した。俺達の新居は”雄”のすぐ裏手のマンション。来月には入居する。間取りは3LDK 10畳の主寝室、8畳の洋室、4畳半の和室だ。8畳の洋室はBook's FINDの倉庫兼事務所に使う。法に守られるようにと俺達は養子縁組もする。将来に向け時が刻み始めた。俺の刺青は出来上がってる。だけど俺達の永久の愛の証が欲しかった。駅で雄真と待ち合わせる。何げに緊張している雄真がいた。
「貢佑…ほんとにいいんだな」
「うん、いぃぜ」
俺は雄真と一緒に刺青屋”郷”に向かった。
扉を開ける。郷さんが向かい入れてくれた。
「おっ、待ってたぞ。まぁ中に入れよ」
俺たちは打ち合わせ室に通される。3人でテーブルを囲んだ。
「郷さん、俺こいつ貢佑と所帯持ちます」
「えっ……しょっ所帯ってお前ら男同士だろ」
郷さんが雄真と見る。そして俺を見た。
「好きになったのが男ってだけです」
「俺も同じです」俺達はきっぱりと声にした。
「それで郷さんに頼みあるんです」
「えっ何だ」
「左腕にこいつの名前彫ろうって思ってます」
郷さんが驚愕の表情を浮かべた。
「お前らマジなのか?お互いの全てを理解し、彫った後の時間を大切に共有することが出来るのか」
「ハイ出来ます」雄真が言い切る。
「俺も出来ます」俺も言い切った。
「判った。意思が固いみたいだな。今の刺青の雰囲気を壊さない図柄を考えてやる。いいな」
「ハイ、ありがとうございます」俺と雄真の声が重なった。
左腕には絆・雄真、雄真の左腕には絆・貢佑と彫られる。結婚への道のりを確実に進んでいった。吉日に入籍を済ませる。俺は三枝貢佑から来生貢佑に変わった。今日俺達は転居する。青い空白い雲清々しい気分の中朝から俺達は動き出した。
「いよいよだな」
「うん」
次々と荷物が運ばれる。新たなダブルベッドも設置された。注文しておいたカーテンが取り付けられる。衣類、雑貨など荷物が収納された。4畳半の和室。ミニ仏壇が置かれた。お位牌は無いけどそこには俺と雄真の両親の遺影が祀られている。玄関には来生雄真、貢佑と記された表札が付けられた。
「粗方片付いたな」雄真の声がやけに明るい。
「うん」俺の顔が綻んでるのが自分でも判った。
「さぁ、準備するぞ」
「そっすね」
ささやかな宴を準備する。来客者は彫師の郷さんと墨仲間のサブとテツ。サブもテツも郷さんの施術で墨を入れた奴で刺青屋”郷”の飲み会の時知り合った。年齢も近く性格もさっぱりしていて男らしい。俺達のことも理解している。この前4人でお茶して俺達の事話したら目を丸くしていた。
2人の暖かい目、そしておめでとうって言葉。心がほっこりした。いそいそと動く俺達。宴の準備が整った。風呂でカラダを浄める。まっさらな白を締め込み作務衣を纏った。
褌 (11)
「始めるぞ」雄真の低く重たい声。
「ハイ」俺も低い声で応えた。
テーブルを挟み向かい合って座っている。結婚証明書に其々署名した。仏壇に生花と酒を手向け線香に火を燈す。厳かな気分になってくる。仏前に並んで正座した。ひとつのぐい呑に酒を注ぐ。最初に雄真が飲み干し次に俺が飲み干した。仏壇を見上げ合掌する。そして作務衣の上を脱ぐ。両親に刺青を晒した。
”父さん、母さん…俺結婚します。こいつが今度連れ合いになる雄真だよ。ひとつ謝らないことがあるんだ。父さんと母さんに貰ったカラダに墨入れた。見てくれよ。カッコいいだろ俺必ず幸せになるから天国で見守ってください”雄真は何て報告したんだろ……多分、いやきっと同じに違いない。2人ぼっちの挙式。心に染みた。
[ 2015/02/07 19:30 ] 色に染まる | TB(-) | CM(0)

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