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泣き虫龍哉⑦

 曇天の土曜日。外は木枯らしが吹いている。俺と龍哉はビシッとスーツを着込んだ。
「龍哉出掛けるぞ」
「うん」
今龍哉の実家に向かった。俺達は結婚する。その了解を得る為だ。龍哉が緊張してるのが手に取るように判る。カミングアウトそして俺との結婚。緊張しないはずがないことだ。
電車の中。時々ぼそぼそ会話する。空気は重たい。北陸の田舎町に俺達は降り立った。外は雪が降っている。街はしんと静まり返っていた。
「龍哉、心配するな。俺が付いてるんだからな」
「うん……」龍哉の表情は強張っている。俺はギュッと手を繋いだ。ミシミシと雪道が軋む。寒さが躰に沁みた。駅前の商店街を抜ける。バイパスを横断した。
「ここっす」
青い瓦屋根の民家。龍哉が玄関の引き戸を開けた。
「ただいま……」
50歳位のちょっと厳つめの親父が出てきた。龍哉と何処となく似ている。龍哉の父親みたいだ。
「あっ鷹丸さん…良くおいでくださいました。さぁ上がってください」
茶の間に通される。座卓に龍哉と並んで座った。向かい側には父親が座っている。母親がお茶をもって入って来た。
「これつまらないものですが……」
買ってきた菓子折りを差し出した。
「お気を使わせて申し訳ありません。ありがたく頂かせてもらいます」龍哉の母さんが明るく言う。
「龍哉が本当にお世話になってるみたいでありがとうございます」龍哉の父さんが声にした。
「とんでもないです。こちらの方こそお世話になってます」
父親の隣に座っている母親がにっこりとほほ笑んでいた。都会暮らしの事、日々の事、そして龍哉の事。話が弾んだ。
「実は……」俺は龍哉との結婚の事を口にする。一瞬場が凍てついた。どれくらいだろう。沈黙が続いた。
「龍哉はどうなんだ」龍哉の父さんが沈黙を破る。ずっと俯いていた龍哉が顔を上げた。
「お、俺は兄貴と……鷹丸さんと一緒になりたいっす」
「判った。許す。母さんいいな」
「ハイ私は龍哉が幸せになるなら……この子が不憫でならなかった」龍哉の母さんが言葉を詰まらせた。
「龍哉は都会の波に呑まれ掛けた。それを救ってくれたのは鷹丸さんですよね。その上龍哉の隠れた才能も見出してくれた。これからも宜しくお願いします」龍哉の父さんが頭を深々と下げた。
「お父さん…頭を上げてください」
父親の厳つい顔から途轍もなく優しい笑顔を浮かべていた。
「今夜は泊ってってください。一緒に飲みましょう」
「今日は腕を振るいますからね」
「あっ母さん俺も手伝うよ」
「えっ……」母親が唖然としている。
「あっお母さん…龍哉は料理にも才能有ったみたいなんですよ」
俺達は散歩に出た。雪は止み雲の間からは陽が射している。
曇天 (3)
「良かったな」
「うん、全部兄貴が言ってくれたから……」
「お前俺の連れ合いになるんだぞ。当たり前だろ」
「うん…兄貴好きっす」
龍哉が腕を組んでくる。
「バカやろ。人に見られるだろ」
「へへ」
龍哉が育った街。通っていた小学校、良く遊んでた公園。色々と巡った。
「ここも良く来てたんだ」
石段を登る。境内の中には本殿の他に祠が2つあった。”ありがとうございます。龍哉と巡り会わせてくれて……俺達は本殿と2つの祠の前で合掌した。
「戻るか」
「うん」
家に戻る。龍哉はキッチンに俺は茶の間で龍哉の父さんと談笑した。交わす会話はもっぱら龍哉の事。都会に馴染めなかった事、幼少の頃の事、そして俺との事。俺の事を電話で話す声がやけに弾んでたと言っていた。
「御飯よ」龍哉の母さんが声を上げる。
俺達はダイニングテーブルを囲んだ。盛り沢山の料理が並んでる。グラスにビールを注がれた。
「雄大さん、龍哉婚約おめでとう」父親の声。
「ありがとうございます」
俺と龍哉の声が重なった。カチンカチン。4つのグラスが触れ合った。
「おっこの角煮美味ぇな。口の中で蕩けそうだ。母さんの味付けじゃねえな」
「そうよ。これは龍哉が作ったの。流石父さんね良くわかったわね。逆に言うと私の味が判るってことよね」
「俺は母さんの味の方が好きだけどな」
「良いわよ。私に気を使わなくてもね。でもホント美味しい。優しい味してる。龍哉らしいわ」
食べながら龍哉の母さんは涙を一雫滴らせてた。
「龍哉、今の仕事どうなんだ」
「うん楽しいっすよ。今ねパッケージのデザインさせて貰ってるんだ」
話が龍哉の仕事の事になった。
「俺さ……」
「へぇそうなのか。頑張れよ」
「うん」
和やかな雰囲気の中食事が終わった。今敷いて貰った布団で抱き合っている。龍哉が俺の胸に顔を埋めてきた。
「いいご両親だな」
「うん」
龍哉が安堵の表情を浮かべている。寝息を立て始めた。俺の股間を握りながら……
翌日俺達は西崎家を後にする。玄関まで龍哉の父さんと母さんが見送ってくれた。玄関の引き戸が締められる。俺と龍哉が家に向かい深々と頭を下げた。
「さぁ行くぞ」
「うん……」
紺碧の空が広がっていた。
[ 2015/02/22 20:39 ] 泣き虫龍哉 | TB(-) | CM(0)

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