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泣き虫龍哉①

 残暑厳しい晩夏。仕事帰りにジムに寄った。格闘技系エアロビクスその後筋トレ、最後はヒーリング系エクササイズ。金曜日の定番メニューだ。週に2~3回位鍛えてるけどそんなに自慢出来る躰でもない。気休めに飲むプロテイン。俺には然程効果はないみたいだ。但しジム行くと生きのいい筋肉野郎共とも会える。ストレス発散。それに目の保養。其れだけでも充分だから俺のジム通いは続いてる。本音はやりたい奴の2人や3人はいるのだけれど……こんな俺。名前は雄大。髭坊主で仕事は医療機器メーカーでエンジニアをしている。とうとう四十路に入ってしまった。シングルライフを満喫している。なんてのは強がりな訳でホントは好きな奴が欲しいんだ。元彼と別れて3年。この夏も出会いは無かった。ジムからの帰り道。暑い空気が纏わり付いてくる。汗がじっとり湧き出てきた。立ち並ぶ木々達がゆらゆら陽炎のように歪んで見える。そんな中俺は週末の過ごし方を考えた。最近俺のちんぽは潤っていない。決めた。下半身を満足させる。脳裏に浮かんだのは幾つかのハッテン場だ。どうせならこれから行くか。心が浮いた。
夜 (9)
マンションのエントランス。しょんぼり佇んでいる奴が居る。年の頃は25歳前後に見える坊主頭で厳つい野郎だ。ガタイは中々いい。170㌢位の身長。首、Tシャツから覗く首、腕はぶっとい。ハーフパンツからは毛深い脚が出ている。そのまま通り過ぎようとしたその時だった。
「あ、あの…」
「えっ何だ。俺か?」
そいつはおどおどしている。汗で額は濡れていた。
「このマンションに住んでいる方ですよね」
「ああそうだけど……」
「かっ、鍵無くしちまって管理会社に電話しても出ないんす。他の連絡先知らないでしょうか?」
上擦った声。カラダは微かに震えて見える。目には涙が溜まっていた。
「この時間だからな」
時間はもう9時を回っていた。
「あれっ待てよ。確か建物管理は別会社が24時間体制でやってるはずだ」
「えっそうなんすか?」
さっきまで泣きべそ掻いていた奴がにこっと笑った。厳つい顔から浮かぶ笑顔。無茶苦茶可愛く見えた。
「チョッ待ってろ。調べてやるからな」
「ハイ……」
俺の部屋は六階の一番奥。エレベータに乗り込んだ。男2人が居る密室。薫るオス臭い奴の匂い。ちょびっと淫らな気分になったのは紛れもない事実だ。エレベーターを降りる。コツコツコツと歩く足音。それさえも隠微に聞こえた。今玄関の前に居る。鍵を穴に突っ込む。扉が開いた。
「おらお前も入れよ」
「えっイイんすか?」
「外暑いだろ」
「あ、ありがとうございます」
リビングに通しソファーに座らせた。
「これでも飲んでチョッと待ってろ」ペットボトルの烏龍茶を出してやる。
「ありがとうございます」
入居書類のファイルを見るとやはり載っていた。
「おっここだ。掛けてみろよ」
何かもじもじしている。
「あっこれメモってイイっすか?」
「イイけど携帯持ってるだろ?」
「部屋に置きっぱなしなんで今無いんす。さっきもこの先のコンビニで公衆電話から掛けたんですよ」
「しょうがねぇなぁほら俺の携帯だ。これで掛けろよ」
「えっイイんすか?」
俺の携帯を手に取りマンションの管理会社に電話している。
「あのぅ……」
「何だ?」
「30分位で来てくれるみたいなんすけどここで待たしてもらってもイイっすか?」
「イイよ。乗り掛かった船だからな」
一滴涙が奴の頬を伝っている。
「どうした?」
「おっ俺高校卒業して上京したんですけど……」
奴が俺に目をくれた。瞳の奥から一途な光が見える。ポツリポツリと語り始めた。奴は厳つく朴訥としている。口も重たい。そして人付き合いが苦手。都会に馴染めなかったみたいだ。そして壮絶な虐めにあったみたいだ。多分性格と風貌が原因では無いかと言っている。そして転職。また苛められる。転職を繰り返し今ちっちゃな倉庫でバイトしてると言う。
「何で俺に話す気になったんだ」
「おっ俺……」
奴の目からは涙がボロボロ溢れている。ギュッと抱きしめたい衝動に駆られた。
「誰かに話したかったんだな」
「す、済んません。見ず知らずの人に話聞いてもらって……」
「構わねえよ。いいことも有るんだから頑張れよ」
「ハイ、ありがとうございました」
奴は笑顔に戻っていた。キョロキョロと部屋を見渡している。
「同じマンションだけどこの部屋は広いんすね」
俺の住んでる部屋はチョッと広めの1LDKだ。10畳のリビングダイニング、8畳の寝室、それにウォーキングクローゼットも付いてる。
「お前ん所は」
「俺の部屋はワンルームっす。寝に帰ってくるだけなんで充分なんすけどね」
「名前は何つうの?」
「西崎龍哉です」
「お兄さんは」
「俺か?俺は鷹丸雄大」
この時あることに気付いてしまった。壁に貼ってあるガチムチ坊主のポスター。テレビ台の下にはゲイDVDが並んでる。部屋干ししてある洗濯物には六尺もあった。龍哉の視線。その先には六尺が有った。今度はポスターを見ている。ピンポーン。インターホンが鳴った。
「あっハイ…ちょっと待ってください」
龍哉と視線が交差する。
「来たみたいだぜ」
「あ、ありがとうございました」
管理会社の人と出ていった。ドアが締まる。心臓が激しく動いた。確実に見られたな。まぁ仕方ない。でもあいつ顔を赤らめてた気がする。もしかして……
[ 2015/02/22 21:03 ] 泣き虫龍哉 | TB(-) | CM(0)

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