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始発電車①

 朝6時アラームが鳴る。眠たい目を擦りながら仕方なくベットを出た。何時もと同じく何の変哲も無い1日が始まる。強いて違いがある事と言えば暫らくぶりに朝勃ちした事位だ。ストレスなのか加齢の為なのか俺には判らない。だけど滅多に朝勃ちしなくなったのは残念ながら紛れもない事実として受けとめている。シャワーを浴びを締め直し朝飯を食い珈琲を飲む。いつもの朝の過ごし方だ。このマンションに住み始めて5年。南向きで陽当たりもいい。ちょっと広めのリビングは天井も高く開放感がある。ベランダに出てみた。眼下では街が動き始めている。俺もスーツの上にコートを纏うと駅に向かった。暦の上ではもう春。だけど風はまだ冷たい。
早春 (2)
足早に俺は歩いた。幸い最寄駅の雄山平からは始発が出ている。毎日座って出勤出来るありがたい。何時ものように列に並んだ。7時15分発の始発電車がホームに入ってくる。俺は乗り込んだ。乗客は良く見る顔ぶれが多い。その中には俺が気になってる奴も居た。30歳代後半に見えるリーマンで短めの頭髪。禿げてはいないけど頭髪はちょっとヤバそうだ。生え揃った口と顎の髭が男の艶を発散させている。身長165㌢位で俺と然程変わらない。着衣の上からでも体躯がガッチリしているのが感じ取れた。運良くそいつの隣が空いている。迷うことなく俺はそこに座った。何度か会っているガチムチリーマン。でも隣に座るのは初めての事だ。たったそれだけの事なんだけど朝からテンションが上がる。ひとつ気になる事は左薬指の指輪だ。結婚しているノンケなんだろう。まぁそれでも目の保養にはなると思ってる。目を瞑り何かを聴いているみたいだ。何時しかウトウトし始め頭を俺の肩にもたれかけてくる。仄かに雄臭い薫りが漂ってきた。電車が揺れる。そいつが目を覚ました。
「あっ済みません」
「イイっすよ」
笑みを浮かべ目を遣ると笑みを返してくれた。心臓が抉られる。凄ぇ可愛い……俺のカラダが微かに動く。抱き寄せたい衝動に駆られた。あいつの膝が俺に触れてくる。その膝が押し付けられれる気がした。えっもしやそんな気がする。あくまで俺の身勝手な妄想だけど……俺は膝を押し返してみた。そいつを見ると顔を紅潮させている。2人の間に手を滑らせた。そいつも同じように手を滑らせてくる。手の甲同士が触れ合った。ドギマギしてる俺。これからどう展開させる。手の甲も膝もくっ付いたままだ。次の行動に移せない俺。自分の事ながら焦れったい。電車がターミナル駅に着いた。手の甲と膝が離れる。あいつは電車を降りた。翌日いつものように始発電車を待つ列に並んでる。気付くと直ぐ後ろにあいつが居た。視線がまったりと交差する。電車がホームに入ってきた。今俺とあいつは並んで座っている。電車が動き始めた。暫くすると昨日と同じ事が起きる。触れ合う膝そして手の甲。隣を見るとあいつは涼しい顔をしている。電車がターミナル駅に入った。
「あっこれ落ちてました」
俺は二つ折にした紙を渡された。
「えっ……」
あいつは人混みに流されるように電車を降りていった。紙を開いてみる。”気になってました。良かったら連絡ください。……@…ne.jp 航生”
カラダが自然に動いた。ホームにボーっと立っている。俺は電車を降りていた。ホームは大勢の人でごった返している。あいつを見つけることは出来なかった。トントンと背中を叩かれる。振り向くとあいつが立っていた。
「俺じゃ駄目っすか」
「そんな事ねぇけど、お前……」
「じゃぁ今度時間作って貰ってもいっすか?」
「か、構わねぇけど……」
航生の目がキラッと光る。瞳の奥から力強い輝きが見えた。
「今晩なんてどっすか」
「えっ…6時に仕事終わるから……」
「じゃぁここの東口に7時でどっすか」
「あぁ判った」
頬にチュッとされる。同時に股間を握られた。あいつ航生の大胆な行動に少しビックリしている。だけど俺にとって願ってもない事なのは事実だ。俺達は今夜初デートする。心が浮き立ってきた。
[ 2015/03/08 17:43 ] 始発電車 | TB(-) | CM(0)

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